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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)11086号 判決 1998年9月03日

大阪市中央区南新町一丁目四番六号

原告

株式会社ソフト九九コーポレーション

右代表者代表取締役

田中信

右訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

右訴訟復代理人弁護士

池下利男

村田秀人

右補佐人弁理士

藤本昇

東京都中央区銀座四丁目一〇番一三号

被告

株式会社リンレイ

右代表者代表取締役

鈴木治男

右訴訟代理人弁護士

櫛田泰彦

右補佐人弁理士

大塚明博

小林保

東京都中野区鷺宮一丁目六番一三号

被告

株式会社ウィルソン

右代表者代表取締役

井本敬

右訴訟代理人弁護士

中村智廣

三原研自

伊藤博

主文

一  原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告株式会社リンレイ(以下「被告リンレイ」という)は、別紙イ号意匠図面(1)記載の包装用缶を、被告株式会社ウィルソン(以下「被告ウィルソン」という)は、別紙ニ号意匠図面(1)記載の包装用缶を、それぞれ製造、販売してはならない。

二  被告らは、前項記載の包装用缶を廃棄せよ。

三  被告らは、それぞれ、原告に対し、金一〇〇〇万円及び内金八〇〇万円に対する平成六年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  事実関係

1  原告の権利

(一) 原告は、左記の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という)を有している(争いがない)。

登録番号 第八七二七五四号

意匠に係る物品 包装用缶

出願日 昭和五九年八月二四日(意願昭五九-三五四九七号)

登録日 平成五年四月六日

登録意匠 別添意匠公報(甲二)参照

(二) 原告は、自動車用ワックスを製造し、これを包装用缶(以下「原告商品」という)に入れて販売している(争いがない)。

原告は、原告商品の形態は本件登録意匠を実施したもの、すなわち本件登録意匠の基本的形状及び具体的形状と同一であると主張するのに対して、被告らは、これを否認し、争いがある。

2  被告リンレイの行為

被告リンレイは、自動車用ワックスを製造し、これを二種類の包装用缶(以下「イ号商品」及び「ロ号商品」という)に入れて販売している(但し、ロ号商品は製造販売を中止している。争いがない)。

イ号商品の意匠(以下「イ号意匠」という)の特定として、原告は別紙「イ号意匠図面(1)」のとおりであると主張するのに対して、被告リンレイは別紙「イ号意匠図面(2)」のとおりであると主張し、争いがある。一方、ロ号商品の意匠(以下「ロ号意匠」という)の特定については、別紙「ロ号意匠図面」のとおりであることについて当事者間に争いがない。

3  被告ウィルソンの行為

被告ウィルソンは、自動車用ワックスを製造し、これを包装用缶(以下「ニ号商品」という)に入れて販売している(争いがない)。

ニ号商品の意匠(以下「ニ号意匠」という)の特定として、原告は別紙「ニ号意匠図面(1)」のとおりであると主張するのに対して、被告ウィルソンは別紙「ニ号意匠図面(2)(缶蓋のある状態)」及び「同(3)(缶蓋のない状態)」のとおりであると主張し、争いがある。

二  原告の請求

原告は、

1  イ号意匠、ロ号意匠及びニ号意匠(以下、これらを合わせて「被告ら意匠」という)はいずれも本件登録意匠に類似するものであるから、イ号商品、ロ号商品及びニ号商品(以下、これらを合わせて「被告ら商品」という)に自動車用ワックスを入れて販売することは本件意匠権を侵害するものであると主張して、

被告リンレイに対し、意匠法三七条一項及び二項に基づき、イ号商品の製造販売の差止め及びその廃棄、民法七〇九条、意匠法三九条一項に基づき、被告リンレイがイ号商品及びロ号商品を製造、販売した不法行為により原告の被った損害の賠償を、

被告ウィルソンに対し、意匠法三七条一項及び二項に基づきニ号商品の製造販売の差止め及びその廃棄、民法七〇九条、意匠法三九条一項に基づき損害賠償を

求め、また、

2  原告商品の形態は、原告の商品表示として周知性を取得しているところ、被告ら商品の形態は原告商品の形態に類似しており誤認混同を生じるので、被告ら商品に自動車用ワックスを入れて販売することは不正競争防止法二条一項一号の不正競争に当たると主張して、

被告リンレイに対し、不正競争防止法三条一項及び二項に基づきイ号商品の製造販売の差止め及びその廃棄、同法四条、五条一項に基づき被告リンレイがイ号商品及びロ号商品を製造、販売した不正競争により原告の被った損害の賠償を、

被告ウィルソンに対し、同法三条一項及び二項に基づきニ号商品の製造販売の差止め及びその廃棄、同法四条、五条一項に基づき損害賠償を

求めるものである。

三  争点

1  被告ら意匠は、それぞれ本件登録意匠に類似するものであるか。

2(一)  原告商品の形態は、原告の商品表示として周知性を取得しているか。

(二)  被告ら商品の形態は、原告商品の形態に類似し誤認混同を生じるか。

3  被告らが原告に対してそれぞれ損害賠償責任を負う場合に支払うべき金銭の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告ら意匠は、それぞれ本件登録意匠に類似するものであるか)について

【原告の主張】

被告ら意匠は、それぞれ本件登録意匠に類似するものである。

1(一) 本件登録意匠は、缶本体が横長短円筒型形状から形成されてなる上面開口型の包装用缶であるという基本的構成態様からなり、その具体的構成態様は次のとおりである。

<1> 缶本体の縦横の構成比が約一対二の横幅広な安定した形態比からなり、

<2> 缶本体の外周側面の上端部にはテーパー面が形成されてなり、

<3> 缶本体の上部において、口金が缶本体の内側に突出するように缶本体の上端に巻締部を介して取り付けられ、かつ該巻締部の外周は、前記缶本体のテーパー面の外周及び缶本体の外周側面より内側に設けられてなり

<4> 缶本体の底部には底蓋が設けられ、かつ該底蓋の巻締部の外周は、缶本体の外周側面と略面一に設けられてなる。

自動車等のワックスの大手販売会社である原告は、ワックス用の缶の使用の便宜を図るために、缶本体の上部にワックス塗布用スポンジを内部に収納すべくキャップホルダーを外嵌合して販売することを着想したが、従来のこの種縦横の比が約一対二で全高約五cmの横幅広なワックス缶は、上部の巻締部が缶本体から突出しているため、キャップホルダーを外嵌合せしめるに適さなかった。そこで、本件登録意匠の創作者は、缶本体の外周側面の上端部にテーパー面を形成するとともに、上部巻締部の外周を前記テーパー面の外周及び缶本体の外周より内側に設けることにより、缶本体の上部にスポンジを収納してキャップホルダーを外嵌合することを可能にし、しかも、キャップホルダーの外周側面と缶本体の外周側面が略面一状態になる、下部安定型のスッキリした缶を創作したのである。

したがって、本件登録意匠は、缶全体の径と高さの比を略二対一とした横幅広な短円筒形状の安定した包装用缶であって、缶本体の上端巻締部は缶全体の胴部外周側面より内側に設けられ、缶本体の下端巻締部は缶本体の胴部外周側面と略面一(同一面上)に設けられ、しかも缶全体の胴部外周側面の上端部には上端巻締部の下縁にかけて内方に傾斜するテーパー面が形成され、包装用缶全体としてシンプルでスリムなかつスッキリした、まとまりと安定感のある形状であることを特徴とするものである。そして、右の形態的特徴によって、突起等の係合手段を設けることなく簡易に包装用缶本体の上部にキャップホルダーを外嵌合せしめることができ、しかも、外嵌合せしめた際、キャップホルダーの下端部がテーパー面に係止され、缶本体の外周側面とキャップホルダーの外周側面が略面一となる結果、複数の缶本体を積み重ねた際、キャップホルダー付包装用缶の全体が非常にすっきりとまとまりのある形態を呈するのである。

この種包装用缶の意匠においては、包装用缶全体の造形的なまとまりが形態として看者の注意を惹くいわゆる意匠の要部となるところ、本件登録意匠は、前記の具体的構成態様、すなわち<1>缶全体が横幅広な短円筒形状である、<2>缶本体の胴部の上端部に上端巻締部にかけて内方に傾斜させたテーパー面を形成している、<3>缶本体の上端巻締部が缶本体の胴部より内側に位置する、<4>缶本体の下端巻締部が缶本体の胴部と略面一である形態が、有機的に結合して全体として造形的なまとまりのある意匠を構成しているため、これが従来にない新規な形態であるとして意匠登録を受けたものであり、要部をなすものである。

意匠は、各構成要素がまとまりのある形態として構成されることによって、看者に全体としての審美感を印象づけるものであり、看者は、当該意匠に係る物品の取引時に物品全体を観察して評価し、しかも使用時の機能や状態、更には展示状態をも観察するものであるから、その要部は、取引状態のみならず、使用状態や展示状態等をも考慮して認定すべきである。したがって、本件登録意匠について、ことさら缶上部の形態(テーパー形状)のみを重視して評価するのは相当ではなく、キャップホルダーを装着した使用状態や展示状態をも考慮し、缶本体、上下の巻締部、缶本体上部のテーパ面の形状の各構成要素の配置やプロポーションが有機的に結合された状態からなる包装用缶の全体を観察して評価すべきである。

このことは、被告リンレイによる本件登録意匠の意匠登録無効審判請求事件における審決(甲一二)が、「本件意匠のような包装用容器の意匠においては、包装用缶全体の造形的なまとまりが形態としての看者の注意を惹くものである」、「創作者も意匠全体としての造形上の視覚的効果に創作上の注意を払うものとするのが相当である。」、「本件登録意匠のような包装用容器の形状においては、容器周側面の形状が最も看者の注意を惹くところと認められ、その造形性が創作の重要なウエイトをしめているものであるから、そのような意匠においては、周側面上端部に傾斜面を設けるか否か、また傾斜面を設けるときにはその傾斜面の角度や幅等を具体的にどのような態様とするかについても意匠全体の造形上の観点から決定されるものであることから、本件登録意匠の周側面上端部の傾斜面の部分だけを他から分離し、その形態のみを取り出してその創作容易性について判断することは妥当なものと言えない。」としていることからも裏付けられる。

(二) 本件登録意匠の平面図、底面図及びA-A断面図(以下「平面図等」という)と、正面図、背面図、左側面図、右側面図及びB-B断面図(以下「正面図等」という)とで、寸法が相違していることは、被告らが主張するとおりである。

しかし、これは、平面図等において缶本体の外径線のみを誤って作図したことによるものであり、その余の構成図はすべて一致している。具体的には、缶本体の外径が一二六mmであるところを、平面図等において一三六mmとして作図してしまったのである。そして、右誤記を、出願人はもちろん、審査官及び審判官も気付くことなく意匠登録がされたのである。被告リンレイも、本件訴訟提起前の交渉の過程において、(本件登録意匠の)「テーパー面の長さは缶本体の高さ方向の直線面の長さとの寸法比が約一対五となっている」とし、本件登録意匠を正面図等を中心に解釈していたのであり(甲八)、このことは、何本もの同心円が重なった図面では、目の錯覚もあって正面形状などを容易に理解できないのが通例であることを物語っている。意匠法においては、特許法及び実用新案法のように訂正審判制度がないため、意匠登録後は一切訂正することができないが、本件登録意匠ついては、平面図等と正面図等とにおける缶本体の外径の不一致は平面図等の作図上の誤記であることが明らかであるから、意匠公報によって十分に特定できる。したがって、本件登録意匠は、平面図等による外周線を二点鎖線で表した上、これを正面図等から理解されるべき外周線を実線で表すことにより補正した別紙「本件登録意匠説明図」記載のとおりであり、これにより把握される本件登録意匠の構成態様(前記(一)記載のとおりである)と被告ら意匠とを対比して類否を判断するべきである。

意匠公報に示された図面等の記載相互間に矛盾ないし不一致がある場合、「可能な限り、右図面の記載を統一的、総合的に判断して創作者の意図した意匠の具体的構成の究明につとめるのが条理上自然な解釈態度である」(大阪地方裁判所昭和四六年一二月二二日判決・無体裁集三巻二号三八九頁〔学習机事件〕、大阪地方裁判所昭和六三年一二月二二日判決・無体裁集二〇巻三号五〇七頁〔釣りざお事件〕)。

被告ウィルソンは、本件登録意匠は、公知の包装用缶に幅広いテーパー面をとったことが意匠の特徴となっているのは明らかであるので、そのテーパー面が顕著に記載されている平面図等こそが正しい図面であると主張し、あるいは、被告らは、平面図等と正面図等のいずれが正しい図面であるか判定できない旨主張するが、正面図等から観察すると、平面図等の作図が誤記であることは一義的かつ明白に認識でき、これが合理的自然な解釈であって、本件登録意匠の特徴をテーパー面の幅広さに求めるのは、意匠図面の見方としては不自然で合理的でない。

被告リンレイは、本件登録意匠の具体的構成態様<2>について、テーパー面の角度や寸法に従った構成比をもって特定すべきである旨主張するが、意匠の対比、評価は別として、この種物品においては寸法の特定がなくとも意匠の構成は十分特定できるのであり、被告リンレイの主張に従えば、角度と寸法で特定されたテーパー面の形態のみが意匠の範囲となってしまうから、不当である。

被告ウィルソンは、本件登録意匠の審査、審判における原告の主張を根拠に、缶本体の上部が開口型であることも本件登録意匠の要部であると主張するが、原告が出願経過において主張したのは本件登録意匠の構成において缶本体が上面開口型であるということであって、該構成が本件登録意匠の要部であると主張したものではない。

(三) 被告ら援用のネックドイン缶が本件登録意匠の出願前に既に公知となっていたことは認めるが、原告が主張する本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様を備えたまとまりのある形態のものではないから、これらの公知意匠も、本件登録意匠の要部は被告ら主張のテーパー面の角度や寸法という局部的な部分であると限定的に解釈する根拠にはならない。

(1) この種ネックドイン缶は、全高約一〇cm以上の縦長円筒状型の形態で、一般的にはエアゾール缶のように液状体を噴霧するために缶上にノズル部を設けて構成され、しかも、缶本体上部は二段階のいわゆるマウンテン型の形態となっている(丙一一)。これに対して、本件登録意匠は、全く異種類の缶の分野に属するワックス缶等の包装用缶、すなわち全高約五cm程度で横幅広な安定型の缶において、缶本体の上端部外周面にテーパー面を形成し該テーパー面の形成によって上部巻締部を缶本体の外周側面及び前記テーパー面の外周より内側に形成したものであって、全高が従来のネックドイン缶のような縦長円筒状型缶の約二分の一以下である横幅広な缶であるため、テーパー面がその使用時の機能と相俟って看者の注意を喚起することになる。つまり、従来のネックドイン缶は、上下の巻締部を除く缶本体の全高に対しネックドイン部の高さが約五二対一と著しく小さいのに対し、本件登録意匠は、缶本体の全高に対し幅のあるテーパー面として存在するので、従来のネックドイン缶では、全高との関係上、上部巻締部の直下外周面に凹状に形成されたネックドイン部は全体観察した場合にほとんど看者に印象を与えるものではないが、本件登録意匠では、この種の缶にはないテーパー面の存在が看者に強く印象づけられるのである。

(2) 丙第七号証及び第九号証掲載の缶はネックドイン缶であるか否か不明であるとともに、缶本体の上端部の外周面の形状は正確に認識できず、しかも、縦長円筒状型缶であって、本件登録意匠とは缶の形態が全く異なる。丙第一〇号証掲載の缶は、仔細な形状が不鮮明であるが、縦長円筒状型缶であるし、缶本体の上部巻締部とその直下の缶本体の上端外周縁部は、側面視略「く」の字状に形成されてなる形態であり、本件登録意匠とは明らかにその形態を異にする。丙第二号証(実開昭五四-四四二六九号公開実用新案公報)掲載の図面に係る缶は、二重缶であって、缶本体の上部外周面に突条突起を複数設けてなるほか、缶底の巻締部は缶本体より著しく突出した形態であるため、本件登録意匠とはその全体の形態において著しく相違し、同一の意匠的効果を奏するものではない。

2 イ号意匠は、テーパー面の幅の大小に若干の相違があるものの、意匠の要部において本件登録意匠と共通し、全体観察をした場合に本件登録意匠と共通の審美感を有するので、本件登録意匠に類似するものである。

(一) イ号意匠(別紙「イ号意匠図面(1)」)の基本的構成態様は、缶本体1と缶蓋10とからなる包装用缶で、缶本体1は横長短円筒型形状の上面開口型の形状からなり、かつ缶本体1の上面開口部を閉鎖する円形の缶蓋10が装着されているというものであり、その具体的構成態様は次のとおりである。

<1>’ 缶本体1の縦横の構成比が約一対二の横幅広な安定した形態比からなり

<2>’ 缶本体1の外周側面2の上端部にはテーパー面3が形成されてなり、

<3>’缶本体1の上部において、口金4が缶本体1の内側に突出するように缶本体の上端に巻締部5を介して取り付けられ、かつ該巻締部5の外周は、前記缶本体1のテーパー面3の外周及び缶本体1の外周側面2より内側に設けられてなり、

<4>’ 缶本体1の底部には底蓋6が設けられ、かつ該底蓋6の巻締部7の外周は、缶本体1の外周側面2と略面一に設けられてなり、

<5>’ 更に前記缶本体1の上面開口部には口金4の内周面に着脱自在な缶蓋10が設けられてなる。

(二) イ号意匠は、本件登録意匠の具体的構成態様<1>ないし<4>において共通しており、また、右のとおり共通した構成により、使用状態においても、ワックス塗布用スポンジ8を収納するためのキャップホルダー9を装着した場合、キャップホルダー9の外周面と缶本体1の外周側面2とが略面一・直線上に形成され、極めてスマートでシンプルな形態として展示販売することができ、更に、多数個を縦方向に積み重ねた場合、缶本体の底部の形状により缶同士が隙間なく、かつ外周面が面一状態となって積み重ねることができるので、安定したスマートな陳列効果を発揮することができる。

確かに、本件登録意匠は缶蓋が装着されていないのに対し、イ号意匠は缶本体に缶蓋が装着されている点が相違するが、包装用缶としては同一物品であることに相違はないし、イ号意匠の缶蓋は周知の形態であるため、その存在が本件登録意匠との重要な相違点になることはない。本件登録意匠では口金の形状が断面略三角形であるのに対し、イ号意匠では略コ字状である点が相違するが、環状の内周面が幅のある当接面として形成されている点で共通しており、内周面内の形状は全く見えない部分であるから、重要な相違点とはなりえない。また、イ号意匠においては、缶本体の上端外周側面に形成されたテーパー面が、本件登録意匠におけるテーパー面よりやや小さい点で相違するが、テーパー面として明確に認識できるものである以上、全体観察をした場合、この相違は細部的な事項にすぎない。

被告リンレイは、イ号意匠では、缶本体1上端部にテーパー面3はなく、缶本体1の胴部Aの外周側面2の上端部に内側に向かって水平面Bが形成され、この水平面Bを介してネック部Cが形成されているから、本件登録意匠に類似しない旨主張する。しかしながら、イ号意匠の缶本体の上端部には、その幅の大小は別として、上部巻締部の外周端よりやや内側から傾斜した傾斜面のあることが肉眼によって十分に観察できる(検甲一の2)。被告リンレイは、右傾斜面をもってテーパー面ではなくアール(曲面)である旨主張するが、アールであるならば弧状を呈するところ、イ号意匠では、このような弧状面はなく、上部巻締部の外周端よりやや内側から缶本体の外周側面に向かって傾斜した傾斜面として認識されることは明らかである。

念のため、被告リンレイ主張の寸法比を考慮してイ号意匠を本件登録意匠と対比すると、(1)テーパー角が、本件登録意匠では約四五度であるのに対し、イ号意匠では約三二度である、(2)テーパー面の縦方向の長さと缶本体の胴部外周側面の縦方向の長さ(テーパー面の長さを除く)との比が、本件登録意匠では約〇・六対四・二であるのに対し、イ号意匠では約〇・二対四・七である、、(3)缶本体上部の巻締部の外径と缶本体胴部外径との比が、本件登録意匠では約一一・八対一二・六であるのに対し、イ号意匠では約一二対一二・二である、という点で若干の相違がある。しかしながら、右(3)の缶本体上部の巻締部の外径と缶本体胴部外径との比の相違は、肉眼による全体観察では判別できないほどの微差で、これによって両意匠が非類似となる理由はないし、(1)のテーパー角の差も、実際上肉眼では識別できないほどの微差である。(2)のテーパー面の幅の差異についても、本件登録意匠の要部が、前記のとおり<1>缶全体が横幅広な短円筒形状である、<2>缶本体の胴部の上端部に上端巻締部にかけて内方に傾斜させたテーパー面を形成している、<3>缶本体の上端巻締部が缶本体の胴部より内側に位置する、<4>缶本体の下端巻締部が缶本体の胴部と略面一であるという具体的構成態様にあるため、両意匠を全体観察した場合細部的事項における微差にすぎない。特に、この種ワックス缶においては、前記のとおり、キャップホルダーの最下端周縁部を該テーパー面上に係止させるよう、缶本体の上部にキャップホルダーを外嵌合させて使用するため、テーパー面の存在自体が重要であって、その幅や角度において若干の相違があっても意匠として異なる美感をもたらすものではない。

3 ロ号意匠は、本件登録意匠に類似することが明らかである。

(一) ロ号意匠(別紙「ロ号意匠図面」)の基本的構成態様は、缶本体1と缶蓋10とからなる包装用缶で、缶本体1は横長短円筒型形状の上面開口型の形状からなり、かつ、缶本体1の上面開口部を閉鎖する円形の缶蓋10が装着されているというものであり、その具体的構成態様は次のとおりである。

<1>’ 缶本体1の縦横の構成比が約一対二の横幅広な安定した形態比からなり、

<2>’ 缶本体1の外周側面2の上端部にはテーパー面3が形成されてなり、

<3>’ 缶本体1の上部において、口金4が缶本体1の内側に突出するように缶本体1の上端に巻締部5を介して取り付けられ、かつ該巻締部5の外周は、前記缶本体1のテーパー面3の外周及び缶本体1の外周側面2より内側に設けられてなり、

<4>’ 缶本体1の底部には底蓋6が設けられ、かつ該底蓋6の巻締部7の外周は、缶本体1の外周側面2と略面一に設けられてなり、

<5>’ 更に、前記缶本体1の上面開口部には口金4の内周面に着脱自在な缶蓋10が設けられてなる。

(二) ロ号意匠は、イ号意匠と同様、本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様<1>ないし<4>において共通している。

念のため、被告リンレイ主張の寸法比を考慮してロ号意匠を本件登録意匠と対比すると、(1)テーパー角が、本件登録意匠では約四五度であるのに対し、ロ号意匠では約五五度である、(2)テーパー面の縦方向の長さと缶本体の胴部外周側面の縦方向の長さ(テーパー面の長さを除く)との比が、本件登録意匠では約〇・六対四・二であるのに対し、ロ号意匠では約〇・四対四・五である、(3)缶本体上部の巻締部の外径と缶本体胴部外径との比が、本件登録意匠では約一一・八対一二・六であるのに対し、ロ号意匠では約一二対一二・二である、という点で若干の相違がある。

しかし、これらの点はいずれも肉眼による全体観察では識別できないほどの微差であるし、イ号意匠について2(二)で述べたと同様の理由により、テーパー面の存在自体が重要であって、その幅や角度において若干の相違があっても意匠として異なる美感をもたらすものではない。

被告リンレイは、ロ号意匠について、テーパー面が存在することを認めた上で、テーパー面の角度が約六〇度で、そのテーパー面が緩い凸曲面状となっていて、形状を著しく異にしているなどと主張するが、ロ号意匠のテーパー面の形状は凸曲面状とはいえず、むしろ傾斜角が明確な傾斜面として形成されている(検甲一の3)から、全体観察をした場合、本件登録意匠と共通のテーパー面を有するものと明らかに認識することができる。

4 ニ号意匠は、本件登録意匠に類似するものである。

(一) ニ号意匠(別紙「ニ号意匠図面(1)」)の基本的構成態様は、缶本体1と缶蓋10とからなる包装用缶で、缶本体1は横長短円筒型形状の上面開口型の形状からなり、かつ、缶本体1の上面開口部を閉鎖する円形の缶蓋10が装着されているというものであり、その具体的構成態様は次のとおりである。

<1>’ 缶本体1の縦横の構成比が約一対二の横幅広な安定した形態比からなり、

<2>’ 缶本体1の外周側面2の上端部にはテーパー面3が形成されてなり、

<3>’ 缶本体1の上部において、口金4が缶本体1の内側に突出するように缶本体1の上端に巻締部5を介して取り付けられ、かつ、該巻締部5の外周は、前記缶本体1のテーパー面3の外周及び缶本体1の外周側面2より内側に設けられてなり、

<4>’ 缶本体1の底部には底蓋6が設けられ、かつ該底蓋6の巻締部7の外周は、缶本体1の外周側面2と略面一に設けられてなり、

<5>’ 更に、前記缶本体1の上面開口部には口金4の内周面に着脱自在な缶蓋10が設けられてなる。

被告ウィルソンは、原告がテーパー面と主張する部分について、単にアール形の折れ曲がりの段差にすぎないと主張する。しかし、この部分は、缶本体の外周面の上端部に内側に向かって約四四度の角度をもつ直線状のテーパー面として形成されており、しかも、このテーパー面の縦方向の長さと缶本体の外周側面のテーパー面の部分を除く縦方向の長さの比は約〇・四対四・四であり、テーパー面として形成されていることは看者が容易に認識できるものである(検甲一の5)。意匠は、特許や実用新案のような「テーパー」の文言解釈等に関わるものではなく物品の形状に関するものであるから、仮にミクロ的に観察するとアール形状の折り返しの連続面であるとしても、看者が実際のニ号商品を全体観察したときにテーパー面の存在を認識すれば、それは物品の形状としてテーパー面が存在するということになるのである。

被告ウィルソンは、ニ号意匠は、丙第二号証(昭五四-四四二六九号公開実用新案公報)に係る考案の延長線上の意匠である旨主張するが、同号証所載の図面に係る缶は、本件登録意匠の要部を全く備えていない。すなわち、同号証の缶は、底蓋の巻締部外周が缶本体の外周側面より大きく突出した下部安定型の缶であって、本件登録意匠のように底蓋の巻締部外周が缶本体の外周側面と略面一に形成された構成態様とは明らかに相違し、また、同号証の缶本体の上端外周側面には複数の突条体が形成されているが、本件登録意匠にはこのような突条体は一切なく、更に同号証の缶は、缶本体の上端巻締部が缶本体の外周側面より内側に位置していない。

(二) ニ号意匠を本件登録意匠と対比すると、ニ号意匠には缶蓋が缶本体に装着されている点、両意匠のテーパー面の長さに若干の差異がある点、口金の形状において相違するが、ニ号意匠は、本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様<1>ないし<4>において共通しているから、全体観察した場合看者に本件登録意匠と共通の審美感を与えるものである。

本件登録意匠にかかる物品である包装用容器においては、その取引形態や使用形態を考慮すると、看者は缶全体を観察するものであるから、全体形態を観察して両意匠の類否判断を行うべきであって、被告ウィルソンの主張のようにテーパー面のみに注視した部分的観察法に基づく類否判断は根本的に誤っている。

仮に被告ウィルソン主張のように寸法比を問題にするならば、上下端の巻締部を除く缶本体のボディの全高とその全高におけるテーパー面との寸法比で対比すべきである。上下端の巻締部の寸法が相違するのみならず、缶本体のボディに占めるテーパー面が看者の注意を惹く要素の一部であるからである。缶本体のボディの全高に対するテーパー面の寸法比は、本件登録意匠では約八・五対一であるのに対し、ニ号意匠では約一三対一であって、大差なく、全体観察をした場合略共通のテーパー面が存在すると評価できるものである。

【被告リンレイの主張】

1(一) 本件登録意匠は、意匠公報によれば、平面図等と正面図等とで、缶本体の外周側面の上端部に形成されたテーパー面の寸法が著しく相違しており、このままでは意匠を特定することができない。右の相違が作図上の誤記であるならば、平面図等と正面図等のいずれの図面が正しいかを合理的な解釈をもって判定し、正しい図面に基づいて登録意匠の特定がなされなければならないが、本件においては、いずれの図面を正しい図面とするかにつき合理的な根拠がない。このような瑕疵のある権利については、被告の不利益にならないように解釈されるべきであるから、平面図等が正しく、正面図等に作図上の誤記があったものと判定されるべきであり、本件登録意匠は平面図等によって特定されるべきである。

右相違につき、原告は、平面図等において缶本体の外径線のみを誤って作図したことによるものである旨主張するが、正面図等において缶本体の直径を表す両側線の間隔を誤って狭く作図したことによるものであるという主張も成り立つのであって、平面図等を基準にするか正面図等を基準にするかを決める合理的な理由はない。原告は、被告リンレイが原告に送付した書面(甲八)の記載を援用して、被告リンレイも本件訴訟提起前の交渉の過程において、本件登録意匠を正面図等を中心に解釈していた旨主張するが、被告リンレイは、図面の誤記を認識した上で、本件訴訟提起前の交渉の過程ということもあり、あえて被告リンレイにとって不利となる図面すなわち正面図等を中心に解釈した本件登録意匠とイ号意匠及びロ号意匠とを対比し、それでもなお非類似であることを主張したのであって、本件登録意匠が正面図等を中心に解釈されることを認めていたのではない。

(二) そこで、本件登録意匠の平面図等を基準にして正しい正面図を示すと、別添「乙第二号証」のとおりであり、その具体的構成態様は次のとおりである(なお、( )内は、正面図等を基準にした場合の寸法、角度の数値である)。

<1> 缶本体の縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態となっている。

<2> 缶本体の外周側面の上端部には、内側に向かって約三〇度(約四五度)の角度を持つ直線状のテーパー面が形成されており、このテーパー面の縦方向の長さと缶本体の外周側面のテーパー面の部分を除く縦方向の長さの比が約一・一対四・三(約〇・八対四・三)である。

<3> 缶本体の上部において、口金が缶本体の内側に突出するように缶本体の上端に巻締部を介して取り付けられ、かつ該巻締部の外周側面は、前記缶本体のテーパー面の外周及び缶本体の外周側面より内側に設けられており、巻締部の外径と缶本体の胴部外径の比が約一二対一三・八(約一二対一二・八)である。

<4> 缶本体の底部には底蓋が設けられ、かつ該底蓋の巻締部の外周は、缶本体の外周側面と略面一に設けられている。

そして、登録意匠の要部を認定するに当たっては、公知意匠を考慮すべきところ、本件登録意匠の右の具体的構成態様のうち、<1>の缶本体の形状(甲六の1)、<3>の態様のうちの口金が缶本体の内側に突出するように缶本体の上端に巻締部を介して取り付けられている形状(乙一)、<4>の巻締部の外周が缶本体の外周側面と略面一に設けられている形状(甲六の1)は、いずれもこの種の缶として周知のものである。したがって、本件登録意匠の具体的構成態様のうち新規な部分は、<2>の缶本体の外周側面の上端部に形成されているテーパー面と、<3>の態様のうちの巻締部の外周側面がテーパー面の外周及び缶本体の外周側面より内側に設けられている形状にある。後者の点については、テーパー面があることにより、巻締部の外周側面は必然的にテーパー面の外周及び缶本体の外周側面よりも内側に設けられることになるので、本件登録意匠で新規な部分として重要な部分はテーパー面にあり、このテーパー面に本件登録意匠の要部があることは明らかである。

そうすると、テーパー面の存在は、意匠の類否の判断に当たり極めて重要であって、これが意匠全体の形状に及ぼす影響を標準として考察する必要があり、このテーパー面の角度や寸法に従った構成比の相違によっては、本件登録意匠の類似範囲から外れる場合があるのである。この点、原告の主張では、本件登録意匠の具体的構成態様<2>は「缶本体の外周側面の上端部にはテーパー面が形成されてなり、」となっており、缶本体の外周側面の上端部にテーパー面が形成されてさえいれば、その角度や寸法に従った構成比に関係なく、すべて類似の範囲に入るという誤った判断を導くことになりかねず、不当である。

原告は、缶本体の外周側面の上端部にテーパー面を形成するとともに、上部巻締部の外周を前記テーパー面の外周及び缶本体の外周より内側に設けることにより、缶本体の上部にキャップホルダーを外嵌合せしめた際、キャップホルダーの外周側面と缶本体の外周側面が略面一状態になるようにした点に本件登録意匠の創作の特徴がある旨主張するが、缶本体の上部にテーパー面を形成するというだけでは、キャップホルダーの外周側面と缶本体の外周側面が必ず略面一状態になるとは限らない。そのためには、テーパー面の形状、寸法等が特定され、かつ、キャップホルダーの形状、寸法等も特定されていなければならないが、本件登録意匠の願書に添付した図面にはキャップホルダーは全く示されていない。

2(一) イ号意匠(別紙「イ号意匠図面(2)」)の具体的構成態様は、次のとおりである。

<1>’ 缶本体1の縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態となっている。

<2>’ 缶本体1の胴部Aの外周側面2の上端部には、内側に向かって水平面Bが形成され、この水平面Bを介して缶本体1の胴部Aの外径より小径のネック部Cが形成されており、ネック部Cの外径と胴部Aの外径の比は約一一・八対一二・三、ネック部Cの縦方向の長さと缶本体1の胴部Aの縦方向の長さの比は約〇・一五対四・八である。

<3>’ 缶本体1の上部において、口金4が缶本体1の内側に突出するように、缶本体1の上端に巻締部5を介して取り付けられ、かつ該巻締部5の外周面は、前記ネック部Cの外側でかつ缶本体1の胴部A外周側面2より僅かに内側に設けられており、前記巻締部5の外径と缶本体1の胴部Aの外径の比が約一二・一対一二・三である。

<4>’ 缶本体1の底部には、底蓋6が設けられ、かつ該底蓋6の巻締部7の外周は、缶本体1の胴部外周側面2より若干大径に設けられている。

原告は、右<2>’につき、缶本体の上端部の水平面Bと胴部との角に、型によるプレス加工という製造上避けられない僅かなアール(曲面)がついていることをもってテーパー面3が形成されていると主張するようであるが、イ号意匠はネック部と胴部との縦方向の長さの比が約一対四五であって、ネック部の下端と胴部の上端との間の面は極く僅かであり、仮にこの僅かな面でテーパー面を形成しているとしても、全体観察をもってこれをテーパー面として認識することはできない。

(二) イ号意匠を本件登録意匠とを対比すると、(1)缶本体1の縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態になっている、(2)缶本体1の上部において、口金4が缶本体1の内側に突出するように缶本体1の上端に巻締部5を介して取り付けられている、との二点に共通点を見い出すことができる。

しかし、(1)本件登録意匠では、缶本体1の外周側面2の上端部に、内側に向かって約三〇度の角度を持つ直線状のテーパー面3が形成されており、このテーパー面3の縦方向の長さと缶本体1の外周側面2のテーパー面3の部分を除く縦方向の長さの比が約一・一対四・三であるのに対し、イ号意匠では、缶本体1の上端部にテーパー面3はなく、缶本体1の胴部Aの外周側面2の上端部に内側に向かって水平面Bが形成され、この水平面Bを介して缶本体1の胴部Aの外径より小径のネック部Cが形成されており、このネック部Cの縦方向の長さと缶本体1の胴部Aの縦方向の長さの比は、約一対四五である、(2)本件登録意匠では、巻締部5の外径と缶本体1の胴部外径の比が約一二対一三・八であるのに対し、イ号意匠では、これが約一二・一対一二・三である、というように、本件登録意匠では、テーパー面の幅が広く、その存在が顕著に認識されるのに対し、イ号意匠では、テーパー面に該当する形状がなく、原告がテーパー面であると主張する水平面の存在を容易に認識することはできない。

右のとおり、イ号意匠は、本件登録意匠の要部であるテーパー面に該当する形状がなく、全体観察によっても本件登録意匠と共通する美感を起こさせるものではないから、本件登録意匠に明らかに類似しない。

3(一) ロ号意匠(別紙「ロ号意匠図面」)の具体的構成態様は、次のとおりである。

<1>’ 缶本体1の縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態となっている。

<2>’ 缶本体1の胴部外周側面2の上端部には、内側に向かって約六〇度の角度を持つ緩い凸曲面状のテーパー面3が形成されており、このテーパー面3の縦方向の長さと缶本体1の胴部外周側面2のテーパー面3の部分を除く縦方向の長さの比は約〇・四対四・七である。

<3>’ 缶本体1の上部において、口金4が缶本体1の内側に突出するように缶本体1の上端に巻締部5を介して取り付けられ、かつ該巻締部5の外周面は、前記缶本体1の胴部外周側面2より僅かに内側に設けられており、前記巻締部5の外径と缶本体1の胴部の外径の比が約一二・一対一二・三である。

<4>’ 缶本体1の底部には、底蓋6が設けられ、かつ該底蓋6の巻締部7の外周は、缶本体1の胴部外周側面2より若干大径に設けられている。

(二) ロ号意匠を本件登録意匠と対比すると、イ号意匠の場合と同様に、(1)缶本体1の縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態になっている、(2)缶本体1の上部において、口金4が缶本体1の内側に突出するように缶本体1の上端に巻締部5を介して取り付けられている、との二点に共通点を見い出すことができる。

しかし、(1)本件登録意匠では、缶本体1の外周側面2の上端部に内側に向かって約三〇度の角度を持つ直線状のテーパー面3が形成されており、このテーパー面3の縦方向の長さと缶本体1の外周側面2のテーパー面3の部分を除く縦方向の長さの比が約一・一対四・三であるのに対し、ロ号意匠では、缶本体1の胴部外周面2の上端部に内側に向かって約六〇度の角度を持つ緩い凸曲面状のテーパー面3が形成されており、このテーパー面3の縦方向の長さと缶本体1の胴部外周側面2のテーパー面3の部分を除く縦方向の長さの比が約〇・四対四・七である、(2)本件登録意匠では、巻締部5の外径と缶本体1の胴部外径の比が約一二対一三・八であるのに対し、ロ号意匠では、これが約一二・一対一二・三である、という点で相違している。

このように、本件登録意匠では、テーパー面の幅が広く、その存在が顕著に認識されるのに対し、ロ号意匠では、テーパー面の角度が約六〇度で、そのテーパー面が緩い凸曲面状になっていて、形状を著しく異にしており、しかも、そのテーパー面3の縦方向の長さと缶本体1の胴部外周側面2の縦方向の長さの比が約〇・四対四・七であって、テーパー面の幅が狭く、テーパー面としてその存在を認識させるほどのものではなく、むしろ、缶本体の上端の巻締部の巻締により胴部上端部に生じるへこみと認識させる程度のものである。

右のとおり、ロ号意匠は、本件登録意匠の要部であるテーパー面において何ら共通するものは認められず、全体観察によっても本件登録意匠と共通する美感を起こさせるものではないから、本件登録意匠に明らかに類似しない。

【被告ウィルソンの主張】

1(一) 本件登録意匠の平面図等と正面図等とで寸法が相違しているのは、平面図等において、缶本体の外径線のみを誤って一三六mmとして作図してしまったことによるものである旨の原告の主張は否認する。

原告は、審査段階における意見書(丙五)及び審判段階における審判請求理由補充書(丙四)において、本件登録意匠の基本的構成態様は「短円筒状で上部にテーパー面Cを形成した缶本体Aと、該缶本体Aに取り付けられた断面略三角形状の口金Bからなる上部開口型の包装用缶にある。」と記載しており、願書に添付した図面では、缶本体上縁部に幅広いテーパー面が縁取られていることが本件登録意匠の極めて重要な特徴として平面図に特に明確に記載されていると認識される。正面図等における缶本体の外径は一二六mmで作図されているが、いずれも本件登録意匠に係る物品が円筒状であるために同一の形状が記載されているにとどまり、テーパー面の幅について原告主張のように正面図等の方が正確で、平面図等が誤りであるとは一義的に決定できない。

むしろ、包装用缶の上部の巻締部外径が缶胴外径より小さい、いわゆるネックドイン缶は、本件登録意匠の出願日である昭和五九年八月二四日前に、(1)「パッケージング」昭和五三年一〇月号(丙七)、(2)「パッケージング」昭和五九年一月号(丙八)(五九頁、六〇頁に、「現在は、ネックドイン缶と呼ばれるスリーピース缶が登場して来ました。従来の缶は缶胴外径が、天地蓋の巻締部外径より小さく製品の外側ラインから巻締部が凸出しておりましたが、この巻締部外径を缶胴外径より小さくすることによって、製品の外側ラインを、キャップを含めて直線化することが出来る様になりました。欧米のエアゾール製品の容器は、このネックドイン缶が主流になっており、エアゾール産業界における最新の革新の一つといわれています。」と記載されている)、(3)「パッケージング」昭和五九年四月号(丙九)(ビールの缶。オーバーキャップの必要がないので、巻締部の外径線と缶胴部の外径線は面一になっている)、(4)「84/パッケージデザイン総覧」昭和五九年一月号(丙一〇)、(5)東洋製罐株式会社昭和五七年九月発行の「ネックドイン缶」のリーフレット(丙一一)(ネックドイン缶の定義として「胴をネックドインすることにより、巻締部の外径を小さくして、オーバーキャップを含めた、胴全体の形状をストレートにした容器です。」、ネックドイン缶の特長として「<1>オーバーキャップとの併用により、スリムな外観が得られます。」と記載されている)等で紹介されており、日本国内では既に公知であったことを考慮すると、本件登録意匠は、公知の包装用缶に幅広いテーパー面をとったことが意匠の特徴となっているのは明らかであるので、そのテーパー面が顕著に記載されている平面図等こそが正しい図面であるというべきである。

少なくとも、本件登録意匠の合理的解釈の結果、正面図等又は平面図等のどちらの図面をもって正しい図面であると判定するべきであるか判明しないのであるから、意匠登録後、第三者である被告の不利益になるような解釈、すなわち、テーパー面の幅の狭い正面図等をもって正しい図面であるとの判定をするのは不当である。本件登録意匠が特定できない以上、本件意匠権には重大な瑕疵のあることが明らかであるから、このような瑕疵の内在する権利を行使する場合には、被告の不利益にならないように権利の範囲は必然的に狭く解釈すべきである。

(二) そこで、平面図等によると、本件登録意匠の基本的構成態様は、横長短円筒型形状で上部にテーパー面を形成した缶本体と、缶本体に取り付けられた断面略三角形状の口金を備えた、上部開口型の包装用缶であり、その具体的構成態様は次のとおりである。

<1> 缶本体の縦横の寸法比は約一対二・三の横幅広である。

<2> 缶本体の上部に幅広のテーパー面が形成されている。

<3> 缶本体の上端から内側に突出するように巻締部を介して断面略三角形状の口金が取り付けられている。

<4> 缶本体の上部は、開口された状態である。

<5> 缶本体の底部には、底蓋が設けられ、かつ、該底蓋の巻締部の外周面は缶本体の外周側面と略面一に設けられている。

そして、本件登録意匠の要部は、原告自身が審判請求理由補充書(丙四)及び意見書(丙五)において述べているとおり、缶上部に、開口部のあること、断面略三角形状の口金があること、テーパー面のあること、という点にあるというべきである。

すなわち、缶上部にテーパー面があることは、本件登録意匠の創作、出願図面の作成、審査及び審判の各段階のいずれの場面でも大きなウエイトを占めていたことが図面上推測され、正面図においてすっきりした印象を与える斜めの直線状のテーパー面が存在すると認識され、平面図においてそのテーパー面の幅が従来にない幅広い面であると認識されたことが、意匠登録を受けるに至った大きな要因であると推測される。

また、原告は、審判請求理由補充書(丙四)において、「しかして、本願意匠の創作の要点は、短円筒状の上部開口型の缶本体の上部にテーパー面Cを形成し、該缶本体の上端から内側に突出するよう巻締め部Dを介して断面略三角形状の口金Bを取りつけたところにあり、かかる形態は従来見られなかったものであり、まさにこの点が本願意匠の要部と認定できる。」、「両意匠の差異点は<3>のⅱ)に記載のとおりで、特に<3>のⅱ)のイロハに記載の差異は、本願意匠の要部にかかるものであり」とした上で、<3>のⅱ)のイ(「缶上部の開口部の有無による差異 本願意匠においては、缶本体Aの上部が開口した状態Eである。これに対して、引用意匠においては蓋板bによつて缶本体aの上部が閉鎖されてなる。」)の「缶上部の開口部の有無による差異は、略有底筒状という全体の形態が一般に特定されているため、缶上部の形態の差異は極めて重要な差異となり、看者にとり明確に識別できるものである。」と述べ、意見書においても同様の主張をしており、缶本体の上部が開口型であることが本件登録意匠の要部であることを原告自身認めている。

更に、缶本体の上端から内側に突出するよう巻締部を介して断面略三角形状の口金が取り付けられていることについても、原告は、右審判請求理由補充書において、「そして、かかる口金を設けることにより、缶本体の上部に該缶より小振りの容器等を重ね置くことができ、まさにこの点が本願意匠の最大の創作ポイントと認められるのである。」と述べているのである。

2(一) ニ号意匠の基本的構成態様は、横長短円筒型形状で、上部がネックドイン缶のためにアール形の曲面が形成された缶本体と、缶本体に取り付けられた断面略コ字状の口金を備えた、上部缶蓋を装着した包装用缶であり、その具体的構成態様についての原告の主張は、<2>’の缶本体1の外周側面2の上端部にテーパー面3が形成されているとの点及び<3>’のうちの「缶本体1のテーパー面3の外周」との点は否認し、その余はいずれも認める(但し、<1>’のうち「安定した形態比」であることは不知)。

ニ号意匠には、原告主張のようなテーパー面は存しない。テーパーとは「円錐状に直径が次第に減少している状態」(広辞苑第四版)あるいは「大きさが一方から他方へ漸次一様に減少すること」(コロナ社・機械用語辞典)をいい、本件登録意匠でいえば、正面図に示されるように、缶本体の上端から巻締部下端までの間が円錐状の直線を構成している部分であり、斜めの直線の存在こそがテーパー面があることの証である。これに対し、ニ号意匠は、ネックドイン缶の構造上、缶本体の上部が内側に曲げられ、次いで上端末が垂直方向に曲げ起こされることによって、アール形の折れ曲がりの段差があるにすぎないのであって、斜めの直線という意味でのテーパー面は存在しない。

そもそも自動車用ワックスの缶にネックドイン缶の形状を最初に採用したのは被告ウィルソンであって、被告ウィルソンは、上部開口部を上蓋で閉じる形態として、従来公知のいわゆるネックドインの形態で、缶上部にアール形の曲面が設けられている缶について実用新案登録出願をし(昭五四-四四二六九号公開実用新案公報・丙二)、かつ、昭和五三年頃には既にこの考案を商品化して販売もしている。ニ号意匠は、右考案の延長線上の意匠であって、既にいろいろな種類の缶で採用されていたネックドイン缶の形状を応用したものである。その際、ニ号商品は、顧客がオーバーキャップを缶から取り外すときに指先を当該オーバーキャップの先端に確実に引っかけて取り外すことが容易にできるように、当該先端部分を缶胴部とは段差をもたせた(つまり、缶胴部より出っ張らせた)形状のものにするという方針に基づき企画されたものであり、その結果、ニ号意匠は、オーバーキャップを被せたとき、キャップと缶胴部とが直線・面一になることはなく、オーバーキャップが外側に出っ張っている形状になっている。したがって、オーバーキャップの外周面と缶本体の外周面とを面一にするためのテーパー面も採用していない。

(二) ニ号意匠を本件登録意匠と対比すると、ニ号意匠は、缶本体の縦横の寸法比が約一対二(約一対二・二二)の横広である点で、本件登録意匠と類似し、缶本体の底部に底蓋が設けられ、その巻締部の外周が缶本体の外周側面と略面一である点で一致する。

しかし、(1)本件登録意匠には、テーパー面があり、このテーパー面は、その大きさが缶本体の全体の高さの約一一分の一、缶本体の半径の長さの約一二・五分の一であり、その傾斜角度が約四五度であって、正面図及び平面図に顕著に顕れているのに対し、ニ号意匠には、テーパー面が存在せず、アール形の曲面があり、このアール形の曲面は、その大きさが缶本体の全体の高さの約一四・三分の一、缶本体の半径の長さの約二三分の一であり、全体に丸みを帯びているためにその傾斜角度の特定はできない状態である、(2)本件登録意匠では口金が断面略三角形状になっているのに対し、ニ号意匠では断面略コ字状になっている、(3)本件登録意匠は単に上部開口の包装用缶であるのに対し、ニ号意匠は自動車用ワックスの包装用缶にかかるものであるため上蓋が必須の構成要素である、という意匠の要部である個々の点において顕著に相違している。

したがって、ニ号意匠は、本件登録意匠と要部において相違し、全体として類似しない。

二  争点2(一)(原告商品の形態は、原告の商品表示として周知性を取得しているか)及び同(二)(被告ら商品の形態は、原告商品の形態に類似し誤認混同を生じるか)について

【原告の主張】

1(一) 原告商品の形態は、本件登録意匠を実施したものであり(但し、そのテーパー面が本件登録意匠のテーパー面よりやや小さく形成されている、本件登録意匠に類似する意匠である)、本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様(前記一【原告の主張】1(一))と同一である(但し、具体的構成態様として<5>を付加する)。

<1> 缶本体1の縦横の構成比が約一対二の横幅広な安定した形態比からなり、

<2> 缶本体1の外周側面2の上端部にはテーパー面3が形成されてなり、

<3> 缶本体1の上部において、口金4が缶本体の内側に突出するように缶本体1の上端に巻締部5を介して取り付けられ、かつ該巻締部5の外周は、前記缶本体1のテーパー面3の外周及び缶本体1の外周側面2より内側に設けられてなり、

<4> 缶本体1の底部には底蓋6が設けられ、かつ、該底蓋6の巻締部7の外周は、缶本体1の外周側面2と略面一に設けられてなり、

<5> 更に、前記缶本体1の上面開口部には口金4内周面に着脱自在な略円盤状の缶蓋が設けられてなる。

そして、原告商品は、使用状態においては、缶全体の外径と略同一外径からなる横長短円筒形状で上面外周部に段差のあるキャップホルダーが装着されており(検甲一の1)、店頭では積み重ねて陳列され、キャップホルダー上面外周部の段差部分にその上の缶本体の底蓋が嵌まり込むため、キャップホルダーの外周面と缶本体の外周側面とが略面一・直線状に形成され、全体としてスマートでシンプルな円筒状の形態を呈する。

(二) 原告商品の昭和六三年以降の販売実績は、平成五年四月三〇日まで(損害賠償請求期間の始期の前日)で、販売個数合計七二六万九一一二個、販売高合計五五億三四一一万二一二八円であり、平成七年一〇月三一日まででは、一一五〇万七九二三個、八四億四六六七万六一三〇円にのぼる(甲一一)。

(三) 原告商品は、右(一)のとおりその形態が意匠登録が認められたように創作性を有するものであり、右(二)のとおりこれまで多数販売されてきたから、原告商品の形態(基本的構成態様及び具体的構成態様)は、本件損害賠償請求時点及び今日において、原告の商品表示として周知性を取得しているというべきである。

被告らは、原告商品における自他商品識別機能は缶本体の外周面に表示されている文字や模様が果たしていると主張するが、原告は、原告商品の形態を右(二)のとおり長期間にわたり独占的に多数の種類のワックス商品に使用してきたのであり、セカンダリー・ミーニングが生じていることは明らかである。

確かに、原告商品の店頭での陳列状態では、キャップホルダーが外嵌合されているため、そのままでは缶本体上部のテーパー面を外部から認識することはできないが、取引業者やエンドユーザーといった需要者は、キャップホルダーを外して中身を見るのが常態であるから、看者にとってテーパー面を認識することは十分に可能であり、それが取引の実情である。

2 被告ら商品(イ号商品、ロ号商品及びニ号商品)の各形態は、原告商品の形態と極めて近似しているし、キャップホルダーを使用した場合に外周面が略面一・直線状となる点でも共通している。ニ号商品のキャップホルダーの外径は缶本体の外径よりごくわずか大きいが、看者には略面一・直線状の形態と認識されることに変わりはない。

したがって、被告ら商品の各形態は、原告商品の形態(及びキャップホルダーを使用した形態)と混同を生じ、原告の営業上の利益を害するものである。

【被告らの主張】

1 原告商品の形態は、自他商品識別機能も周知性も取得していないから、不正競争防止法二条一項一号によって保護される対象とはなりえない。

(一) 原告商品は、本件登録意匠を実施したものとはいえない。

原告商品のテーパー面は、上端部を折り返すことによりわずかに形成されるアール形状のテーパー面であるのに対し、本件登録意匠のテーパー面は斜め直線状の幅広のテーパー面であるから、原告主張のように原告商品の形態は「そのテーパー面が本件登録意匠のテーパー面よりやや小さく形成されている」というようなものではなく、両者は全く異なった形状のものである(但し、被告ウィルソンは、原告商品について、「テーパー面」と呼ぶことも否認する)。

(二) 原告商品の形態が不正競争防止法二条一項一号によって保護されるためには、原告商品の形態が自他商品識別機能ないし出所表示機能を生じさせるに足りる独自な意匠的特徴を有し、かつ、その特徴によって自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する状態となっており、更に周知となっていなければならない。

しかるに、原告商品は、自動車用ワックスの包装用缶であり、缶本体の上端部に形成されたテーパー面は、右(一)のとおり上端部を折り返すことによりわずかに形成されるアール形状のテーパー面であって、全体として従来の自動車用ワックスの包装用缶との差は極くわずかであり、自他商品識別機能を生じさせるほどの意匠的特徴は全く認められないし、実際の販売に当たっては、缶本体の上面外周部にキャップホルダーが装着されているため、テーパー面は外部から認識できない状態にあり、キャップホルダーの外周面と缶本体の外周側面とが面一・直線状となることはネックドイン缶の場合には公知の形態であるから、原告商品の形態が自他商品識別機能や商品表示としての周知性を取得する余地は全くない。原告商品における自他商品識別力は、缶本体の外周面に表示されている文字や模様が果たしているのである。

2 (被告ウィルソン)

ニ号商品がその形態により原告商品との混同を生じさせたことはないし、そのおそれも存在しない。

三  争点3(被告らが原告に対してそれぞれ損害賠償責任を負う場合に支払うべき金銭の額)について

【原告の主張】

1 被告リンレイについて

(一) 被告リンレイは、平成五年五月一日以降今日までの間、その製造した自動車用ワックスをイ号商品又はロ号商品に入れて、一缶七三〇円ないし一一三〇円程度で少なくともそれぞれ五万個(計一〇万個)販売している。一缶当たりの利益は、少なくとも約八〇円と考えられるから、合計で少なくとも八〇〇万円の利益を得ている。

右被告リンレイが得た利益の額は、原告が被った損害の額と推定される。

(二) 本件訴訟の特殊性からすると、弁護士費用及び補佐人費用のうち、それそれ一〇〇万円が被告リンレイの行為と相当因果関係にある損害であると考えられる。

(三) よって、原告は、被告リンレイに対し、損害賠償として右(一)及び(二)の合計一〇〇〇万円の支払いを求める。

2 被告ウィルソンについて

(一) 被告ウィルソンは、平成五年五月一日以降今日までの間、その製造した自動車用ワックスをニ号商品に入れて、一缶七四〇円程度で少なくとも一〇万個販売している。一缶当たりの利益は、少なくとも約八〇円と考えられるから、合計で少なくとも八〇〇万円の利益を得ている。

右被告ウィルソンが得た利益の額は、原告が被った損害の額と推定される。

(二) 本件訴訟の特殊性からすると、弁護士費用及び補佐人費用のうち、それそれ一〇〇万円が被告リンレイの行為と相当因果関係にある損害であると考えられる。

(三) よって、原告は、被告ウィルソンに対し、損害賠償として右(一)及び(二)の合計一〇〇〇万円の支払いを求める。

【被告らの主張】

原告の右1又は2の主張は、争う。

第四  争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(被告ら意匠は、それぞれ本件登録意匠に類似するものであるか)について

1  被告らがその製造した自動車用ワックスを入れて販売している包装用缶(被告ら商品)の基本的構成態様は、いずれも、横長短円筒形で上面開口型の缶本体1とその上面開口部に装着される円形の缶蓋10からなるものと認められ、その具体的構成態様は、以下のとおりである(これに反する当事者双方の主張は採用することができない)。

(一) イ号意匠

イ号意匠は、検甲第一号証の1、第二、第四号証、第五号証の1、検乙第五号証、第六号証の1・2によれば、別紙「イ号意匠図面(1)」記載のとおりである(但し、缶本体1の外周側面2からテーパー面3に折れ曲がる部分には、別紙「イ号意匠図面(2)」のように、境界線が円周上に顕れ、また、下端巻締部7の外径は、別紙「イ号意匠図面(2)」の方が正しい)と認められ、これによれば、その具体的構成態様は次のとおりであると認められる。

<1>’ 缶本体1は、縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態である。

<2>’ 缶本体1の外周側面2の上端部には、内側に向かって垂直面から約四五度折れ曲がったテーパー面3が形成されており、該テーパー面の垂直高さは、上下両端部の巻締部を除く缶本体1の外周側面2の縦方向の長さ全体(以下、単に「外周側面2の縦方向長さ」という)の約一九・五分の一であり、平面から見た水平長さは、缶本体1の外周側面2の半径の約二四・五分の一である。

<3>’ 缶本体1の上部において、口金4が缶本体1の内側に突出するように缶本体1の上端に巻締部5を介して取り付けられ、かつ該巻締部5の外周は、前記缶本体1のテーパー面3の外周及び缶本体1の外周側面2より僅かに内側に設けられている。

<4>’ 缶本体1の底部には底蓋6が設けられ、かつ該底蓋6の巻締部7の外周は、缶本体1の外周側面2より若干大径に設けられている。

<5>’ 缶本体1の上面開口部には、口金4の内周面に着脱自在な円形の缶蓋10が装着されている。

(二) ロ号意匠

ロ号意匠図面及び検甲第一号証の3によれば、ロ号意匠の具体的構成態様は次のとおりであると認められる。

<1>’ 缶本体1は、縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態である。

<2>’ 缶本体1の外周側面2の上端部には、内側に向かって垂直面から約三〇度折れ曲がったテーパー面3が形成されており、該テーパー面3の垂直高さは、外周側面2の縦方向長さの約九・九分の一であり、平面から見た水平長さは、缶本体1の外周側面2の半径の約二四・五分の一である。

<3>’ 缶本体1の上部において、口金4が缶本体1の内側に突出するように缶本体1の上端に巻締部5を介して取り付けられ、かつ該巻締部5の外周面は、前記缶本体1のテーパー面3の外周及び缶本体1の外周側面2より僅かに内側に設けられている。

<4>’ 缶本体1の底部には底蓋6が設けられ、かつ該底蓋6の巻締部7の外周は、缶本体1の外周側面2と略面一に設けられている。

<5>’ 缶本体1の上面開口部には、口金4の内周面に着脱自在な円形の缶蓋10が装着されている。

(三) ニ号意匠

ニ号意匠は、検甲第一号証の5、第三号証、第五号証の2、検丙第四ないし第六号証によれば、別紙「ニ号意匠図面(1)」のとおりであると認められ、これによれば、その具体的構成態様は次のとおりであると認められる。

<1>’ 缶本体1は、縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態である。

<2>’ 缶本体1の外周側面2の上端部には、内側に向かって垂直面から約三〇度折れ曲がったテーパー面3が形成されており、該テーパー面3の垂直高さは、外周側面2の縦方向長さの約一五・六分の一であり、平面から見た水平長さは、缶本体1の外周側面2の半径の約二四分の一である。

<3>’ 缶本体1の上部において、口金4が缶本体1の内側に突出するように缶本体1の上端に巻締部5を介して取り付けられ、かつ該巻締部5の外周は、前記缶本体1のテーパー面3の外周及び缶本体1の外周側面2より僅かに内側に設けられている。

<4>’ 缶本体1の底部には底蓋6が設けられ、かつ該底蓋6の巻締部7の外周は、缶本体1の外周側面2と略面一に設けられている。

<5>’ 缶本体1の上面開口部には、口金4の内周面に着脱自在な円形の缶蓋10が装着されている。

2(一)  ところで、甲第二号証(意匠公報)及び丙第一号証(意匠登録願)によれば、本件登録意匠は、その基本的構成態様が横長短円筒形で上面開口型の缶本体からなるものと認められるが、意匠登録願添付の図面では、平面図等と正面図等との間で缶本体の外周側面の外径の寸法に不一致があり、平面図等における方が正面図等におけるより外周側面の外径線が大きく作図されていることが明らかである。

そして、右平面図等における外径の寸法が正しいとすれば、本件登録意匠の具体的構成態様は、次のとおりであると認められる(末尾添付の乙第二号証参照)。

<1> 缶本体は、縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態である。

<2> 缶本体の外周側面の上端部には、内側に向かって垂直面から約六〇度折れ曲がった直線状のテーパー面が形成されており、該テーパー面の垂直高さは、外周側面の縦方向長さの約九・六分の一であり、平面から見た水平長さは、缶本体の外周側面の半径の約七・二分の一である。

<3> 缶本体の上部において、口金が缶本体の内側に突出するように缶本体の上端に巻締部を介して取り付けられ、かつ該巻締部の外周は、前記缶本体のテーパー面の外周及び缶本体の外周側面より内側に設けられている。

<4> 缶本体の底部には底蓋が設けられ、かつ該底蓋の巻締部の外周は、缶本体の外周側面と略面一に設けられている。

これに対し、右正面図等における外径の寸法が正しいとすれば、本件登録意匠の具体的構成態様は、次のとおりであると認められる(末尾添付の「本件登録意匠説明図」参照)。

<1> 缶本体は、縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態である。

<2> 缶本体の外周側面の上端部には、内側に向かって垂直面から約四五度折れ曲がった直線状のテーパー面が形成されており、該テーパー面の垂直高さは、外周側面の縦方向長さの約九・六分の一であり、平面から見た水平長さは、缶本体の外周側面の半径の約一二・七分の一である。

<3> 缶本体の上部において、口金が缶本体の内側に突出するように缶本体の上端に巻締部を介して取り付けられ、かつ該巻締部の外周は、前記缶本体のテーパー面の外周及び缶本体の外周側面より内側に設けられている。

<4> 缶本体の底部には底蓋が設けられ、かつ該底蓋の巻締部の外周は、缶本体の外周側面と略面一に設けられている

したがって、右両方の場合で、具体的構成態様<1>、<3>、<4>は一致するが、具体的構成態様<2>については、平面図等における外径の寸法が正しいとすれば、缶本体の外周側面の上端部に内側に向かって形成されている直線状のテーパー面は、垂直面からの折れ曲がりの角度が約六〇度であり、このテーパー面の垂直高さは、外周側面の縦方向長さの約九・六分の一であり、平面から見た水平長さは、缶本体の外周側面の半径の約七・二分の一であるのに対し、正面図等における外径の寸法が正しいとすれば、缶本体の外周側面の上端部に内側に向かって形成されている直線状のテーパー面は、垂直面からの折れ曲がりの角度が約四五度であり、このテーパー面の垂直高さは、外周側面の縦方向長さの約九・六分の一であり、平面から見た水平長さは、缶本体の外周側面の半径の約一二・七分の一であるというように、相違があり、平面図等が正しいとした場合の本件登録意匠の具体的構成態様は、正面図等が正しいとした場合の本件登録意匠の具体的構成態様に比して、缶本体の外周側面の上端部に内側に向かって形成されている直線状のテーパー面が、幅が広く、垂直面からの折れ曲がりの角度も大きいものとして特定されるということになる。

(二)  そこで、本件登録意匠の特定は平面図等によるべきか正面図等によるべきかについて検討するに、原告は、前記テーパー面の角度や寸法の相違は、平面図等において缶本体の外径線のみを誤って作図したことによるものであり、その余の構成図はすべて一致しており、右誤記を出願人はもちろん、審査官及び審判官も気付くことなく意匠登録がされ、被告リンレイも、本件訴訟提起前の交渉の過程において、本件登録意匠を正面図等を中心に解釈していたものであり(甲八)、意匠法においては特許法及び実用新案法のように訂正審判制度がないため、意匠登録後は一切訂正することができないが、本件登録意匠については、平面図等と正面図等における缶本体の外径の不一致は平面図等の作図上の誤記であることが明らかであるから、意匠公報によって十分に特定できる旨主張する。

本件のように、登録意匠の願書添付の図面相互間に不一致がある場合、そのことより直ちに当該登録意匠の範囲を確定することはできないとするのではなく、当業者の立場から、願書及び添付図面の記載内容並びに当該登録意匠に係る物品の性状などを総合的に判断し、合理的、客観的に、いずれかの図面が作図上の誤記であると理解することができ、統一性のある意匠として把握することができる場合には、その意匠をもって当該登録意匠の内容をなすものと認めるのが相当である(大阪地方裁判所昭和四六年一二月二二日判決・無体裁集三巻二号三八九頁、大阪地方裁判所昭和六三年一二月二二日判決・無体裁集二〇巻三号五〇七頁)。

しかして、証人松本二三男は、収納缶の全体の感じ、形態を把握するには、缶の横(正面図)から見た方が分かりやすい旨証言するが、需要者がこの種の収納缶を見る場合、斜め上方から見る(検甲一の1~7の写真のように)のが通常であると考えられ、したがって、平面図の重要性も否定できないし、意匠登録出願の願書に添付すべき図面について、立体を表す図面は、正投象図により各図同一縮尺で作成した正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図をもって一組とされている(意匠法施行規則二条様式第五の備考8)のは、立体を表す場合には、正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図を一組としてはじめて正確に表すことができるためであると解されるから、缶の横から見た方が収納缶の全体の感じ、形態が分かりやすいからといって、直ちに平面図等が誤記であって正面図等が正しいとすることはできない。

一方、「月刊パッケージング・第二六一号」昭和五三年一〇月号(丙七)には、上端巻締部の外径が胴部外径より小さく、胴部上端にテーパー面が形成されている縦長円筒形のエバーフレッシュ缶の写真が掲載されていること、昭五四-四四二六九号公開実用新案公報(丙二)には、縦横の構成比が約一対二の横長短円筒形の上缶及び下缶からなる二重缶において、上缶周壁及び下缶周壁の各上端部が内側に折り曲げられ、次いで垂直に立ち上げられた部分に口金が取り付けられた構造が示されていること、昭和五七年九月東洋製罐株式会社発行の「ネックドイン缶」のパンフレット(丙一一)には、「ネックドイン缶とは」と題して「胴をネックドインすることにより、巻締部の外径を小さくして、オーバーキャップを含めた、胴全体の形状をストレートにした容器です。従来のブリキサイドシームエアゾール缶は肩部および底部に巻締部(シームバンド)の張り出しがありましたが、ネックドイン缶ではこれがなくなりました。」と記載され、上端巻締部の外径が胴部外径より小さく、胴部上端にテーパー面が形成され、下端巻締部の外径が胴部外径と略同一で、胴部下端に僅かにテーパー面が形成されている縦長円筒形のエアゾール用缶の写真と図面が掲載されていること、「月刊パッケージング・第三二四号」昭和五九年一月号(丙八)には、「更に現在はネックドイン缶と呼ばれるスリーピース缶が登場して来ました。従来の缶は缶胴外径が、天地蓋の捲締部外径より小さく製品の外側ラインから捲締部が凸出しておりましたが、この捲締部外径を缶胴外径より小さくすることによって、製品の外側ラインを、キャップを含めて直線化することが出来る様になりました。」と記載され、右と同様のエアゾール用缶の写真とこれにキャップを被せた状態の写真が掲載されていること、昭和五九年一月五日発行の「84/パッケージデザイン総覧」(丙一〇)には、上端及び下端の各巻締部の外径が胴部外径と略同一で、胴部上端及び下端にテーパー面が形成されている縦長円筒形のジュース缶の写真が掲載されていること、「月刊パッケージング・第三二七号」昭和五九年四月号(丙九)には、上端巻締部の外径が胴部外径と略同一で、胴部上端にテーパー面が形成されている縦長円筒形のビール缶の写真、及び上端巻締部の外径が胴部外径より小さく、胴部上端に一段又は二段の山のあるテーパー面が形成されている縦長円筒形のビール缶の写真が掲載されていることが認められるのであって、このことからすれば、本件登録意匠の出願日である昭和五九年八月二四日当時既に、上端巻締部の外径が胴部外径より小さく、胴部上端にテーパー面が形成され、下端巻締部の外径が胴部外径と略同一で、胴部下端に僅かにテーパー面が形成されている縦長円筒形の収納缶が、ネックドイン缶としてありふれた形状であったということができる。そして、缶本体の縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態もありふれたものであったことは弁論の全趣旨により明らかである(前記公開実用新案公報記載のものも一例である)から、本件登録意匠は、缶本体の縦横の構成比が約一対二のありふれた横幅広の形態の通常の(二重缶ではない)収納缶に、縦長円筒形の収納缶の上端及び下端の構造としてはありふれた形状であるネックドイン缶の形状を採用したところに特徴があるということができるのであり、そのネックドイン缶の形状の採用に当たり、直線状のテーパー面の角度及び寸法をどの程度にするかは、創作者の創作いかんにかかるところであるが、当業者からみて、直線状のテーパー面の角度及び寸法を平面図等によって示される程度のものとしたものであるか、正面図等によって示される程度のものとしたものであるかは、一義的に明らかであるということはできない。

その他、当業者の立場から、本件登録意匠の願書及び添付図面の記載内容並びに意匠に係る物品(包装用缶)の性状などを総合的に判断しても、合理的、客観的に、原告主張のように平面図等が作図上の誤記であると理解することができるとはいえないから、結局、本件登録意匠の内容を把握することはできないといわなければならない。このことは、原告主張のように図面上の不一致を出願人はもちろん、審査官及び審判官も気付くことなく意匠登録がされたからといって、変わりはない。

(三)  そうすると、本件登録意匠の内容を把握することができない以上、被告ら意匠が本件登録意匠に類似するかどうかを判断することができないから、本件意匠権の侵害を理由に、被告らに対し被告ら商品の製造販売の差止め及び損害の賠償を求める原告の請求は、理由がないものとして棄却するほかはない。

3  のみならず、仮に原告主張のように平面図等が作図上の誤記であり正面図等における外径の寸法が正しいとしても、以下のとおり、被告ら意匠は本件登録意匠に類似しないものといわなければならない。

(一) 本件登録意匠は、その基本的構成態様が横長短円筒形で上面開口型の缶本体からなるものであり、その具体的構成態様は、正面図等における外径の寸法が正しいとすれば、前記2(一)記載のように次のとおりである。

<1> 缶本体は、縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態である。

<2> 缶本体の外周側面の上端部には、内側に向かって垂直面から約四五度折れ曲がった直線状のテーパー面が形成されており、該テーパー面の垂直高さは、外周側面の縦方向長さの約九・六分の一であり、平面から見た水平長さは、缶本体の外周側面の半径の約一二・七分の一である。

<3> 缶本体の上部において、口金が缶本体の内側に突出するように缶本体の上端に巻締部を介して取り付けられ、かつ該巻締部の外周は、前記缶本体のテーパー面の外周及び缶本体の外周側面より内側に設けられている。

<4> 缶本体の底部には底蓋が設けられ、かつ該底蓋の巻締部の外周は、缶本体の外周側面と略面一に設けられている。

(二) 被告ら意匠は、その基本的構成態様が横長短円筒形で上面開口型の缶本体1とその上面開口部に装着される円形の缶蓋10からなるものであり、その具体的構成態様は、前記1の(一)ないし(三)の認定によれば、次のとおりである。

<1>’ 缶本体1は、縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態である。

<2>’ 缶本体1の外周側面2の上端部には、内側に向かって垂直面から約四五度(イ号意匠)又は約三〇度(ロ号意匠及びニ号意匠)折れ曲がったテーパー面3が形成されており、該テーパー面3の垂直高さは、外周側面2の縦方向長さの約一九・五分の一(イ号意匠)、約九・九分の一(ロ号意匠)又は約一五・六分の一(ニ号意匠)であり、平面から見た水平長さは、缶本体1の外周側面2の半径の約二四・五分の一(イ号意匠及びロ号意匠)又は約二四分の一(ニ号意匠)である。

<3>’ 缶本体1の上部において、口金4が缶本体1の内側に突出するように缶本体1の上端に巻締部5を介して取り付けられ、かつ該巻締部5の外周は、前記缶本体1のテーパー面3の外周及び缶本体1の外周側面2より僅かに内側に設けられている。

<4>’ 缶本体1の底部には底蓋6が設けられ、かつ該底蓋6の巻締部7の外周は、缶本体1の外周側面2より若干大径に(イ号意匠)又は缶本体1の外周側面2と略面一に(ロ号意匠及びニ号意匠)設けられている。

<5>’ 缶本体1の上面開口部には、口金4の内周面に着脱自在な円形の缶蓋10が装着されている。

(三) そこで、被告ら意匠を本件登録意匠と対比すると、

被告ら意匠は、基本的構成態様のうちの缶本体が横長短円筒形で上面開口型である点、具体的構成態様<1>、具体的構成態様<2>のうちの缶本体の外周側面の上端部に内側に向かって垂直面から約四五度(イ号意匠のみ)折れ曲がったテーパー面が形成されている点、具体的構成態様<3>(但し、後記(2)の相違点を除く)、及び具体的構成態様<4>(ロ号意匠及びニ号意匠)について本件登録意匠と一致し、

(1) 具体的構成態様<2>における、缶本体の外周側面の上端部に内側に向かって折れ曲がって形成されたテーパー面について、本件登録意匠では、その垂直面からの折れ曲がりの角度が約四五度であり、その垂直高さは、外周側面の縦方向長さの約九・六分の一であり、平面から見た水平長さは、缶本体の外周側面の半径の約一二・七分の一であるのに対し、被告ら意匠では、その垂直面からの折れ曲がりの角度が約三〇度(ロ号意匠及びニ号意匠)であり、その垂直高さは、外周側面の縦方向長さの約一九・五分の一(イ号意匠)、約九・九分の一(ロ号意匠)又は約一五・六分の一(ニ号意匠)であり、平面から見た水平長さは、缶本体の外周側面の半径の約二四・五分の一(イ号意匠及びロ号意匠)又は約二四分の一(ニ号意匠)である点、

(2) 右(1)の相違の結果、具体的構成態様<3>について、巻締部の外周が缶本体のテーパー面の外周及び缶本体の外周側面より内側に設けられている程度が、被告ら意匠では僅かである点、

(3) 具体的構成態様<4>について、底蓋の巻締部の外周が、本件登録意匠では、缶本体の外周側面と略面一に設けられているのに対し、イ号意匠では、缶本体の外周側面より若干大径に設けられている点、

(4) 被告ら意匠では、具体的構成態様<5>’(缶本体1の上面開口部には、口金4の内周面に着脱自在な円形の缶蓋10が装着されている)を備えているのに対し、本件登録意匠では、右態様を欠如している点

で相違する。

しかして、前示のとおり、需要者がこの種の収納缶を見る場合、斜め上方から見るのが通常であると考えられるところ、本件登録意匠及び被告ら意匠の構成態様は極めて単純であり、本件登録意匠と被告ら意匠との一致点のうち、基本的構成態様のうちの缶本体が横長短円筒形で上面開口型である点、具体的構成態様<1>、具体的構成態様<2>のうちの缶本体の外周側面の上端部に内側に向かって垂直面から約四五度(イ号意匠のみ)折れ曲がったテーパー面が形成されている点、具体的構成態様<3>は、この種の収納缶の形態としてありふれたものであり、具体的構成態様<4>(ロ号意匠及びニ号意匠)は細部の点であって、いずれも需要者の注意を惹かないものであるのに対し、前記相違点(1)については、この種の収納缶を斜め上方から見る場合、本件登録意匠における具体的構成態様<2>のテーパー面が、平面から見た水平長さが缶本体の外周側面の半径の約一二・七分の一であるというように大きく、明確な直線状をなしている点が需要者の注意を強く惹くというべきであり、一方、被告ら意匠では、平面から見た水平長さが缶本体の外周側面の半径の約二四・五分の一(イ号意匠及びロ号意匠)又は約二四分の一(ニ号意匠)であるというように本件登録意匠の半分程度であって小さく、明確な直線状をなしているとはいい難く、従来のネックドイン缶におけるテーパー面の大きさの域を出るものではないのであって、需要者の注意を惹かないというべきである。

したがって、被告ら意匠は、本件登録意匠において需要者の注意を強く惹くテーパー面の水平長さにおいて大きく異なり、前記のとおり極めて単純な構成態様からなる包装缶においてはこの差異が意匠全体のもたらす印象を大きく左右し、全体観察によっても需要者に本件登録意匠とは異なる美感を起こさせるものであるから、缶蓋の有無(被告ら意匠における具体的構成態様<5>’)を別としても、本件登録意匠に類似しないというべきである。

原告は、本件登録意匠ではテーパー面の存在自体が重要であって、本件登録意匠と被告ら意匠におけるテーパー面の角度や寸法の差異は、細部的事項における微差にすぎない旨主張するが、採用できない。また、原告は、両意匠は、共通した構成により、使用状態においても、ワックス塗布用スポンジ8を収納するためのキャップホルダー9を装着した場合、キャップホルダー9の外周面と缶本体1の外周側面2とが略面一・直線状に形成され、極めてスマートでシンプルな形態として展示販売することができ、更に、多数個を縦方向に積み重ねた場合、缶本体の底部の形状により缶同士が隙間なく、かつ外周面が面一状態となって積み重ねることができるので、安定したスマートな陳列効果を発揮することができる旨主張するが、右原告主張のようなキャップホルダーを装着した状態で使用すること(検甲第五号証の1・2及び第六号証によれば、多数個を縦に積み重ねるというのも、キャップホルダーを装着した上で縦に積み重ねるというものであることが認められる)については本件登録意匠の願書にも添付した図面にも一切記載されていないし、被告ら意匠自体のもたらす美感が本件登録意匠自体のもたらす美感と異なる以上、そのような使用状態が共通するからといって、意匠自体が類似するということにはならない。

二  争点2(一)(原告商品の形態は、原告の商品表示として周知性を取得しているか)及び同(二)(被告ら商品の形態は、原告商品の形態に類似し誤認混同を生じるか)について

1  原告が自動車用ワックスを製造し、これを原告商品に入れて販売していることは、前記第二の一1(二)のとおり当事者間に争いがないところ、原告は、原告商品は、その形態が意匠登録が認められたように創作性を有する形態であり、これまで多数販売されてきたから、原告商品の形態(基本的構成態様及び具体的構成態様)は本件損害賠償請求時点及び今日において、原告の商品表示として周知性を取得しているというべきところ、被告ら商品の各形態は、原告商品の形態と極めて近似しているし、キャップホルダーを使用した場合に外周面が略同一・直線状となる点でも共通しているから、原告商品の形態(及びキャップホルダーを使用した形態)と混同を生じ、原告の営業上の利益を害するものであると主張する。

2  まず、原告商品の形態は、甲第七号証(原告補佐人作成の「本件登録意匠と被告各意匠との対比図」における原告実施意匠)、検甲第一号証の1及び弁論の全趣旨によれば、その基本的構成態様が横長短円筒形で上面開口型の缶本体とその上面開口部に装着される円形の缶蓋からなり、その具体的構成態様は次のとおりであると認められる。

<1> 缶本体は、縦横の構成比が約一対二の横幅広の形態である。

<2> 缶本体の外周側面の上端部には、内側に向かって垂直面から約四五度折れ曲がったテーパー面が形成されており、該テーパー面の垂直高さは、外周側面の縦方向長さの約二九分の一であり、平面から見た水平長さは、缶本体の外周側面の半径の約三七分の一である。

<3> 缶本体の上部において、口金が缶本体の内側に突出するように缶本体の上端に巻締部を介して取り付けられ、かつ該巻締部の外周は、前記缶本体のテーパー面の外周及び缶本体の外周側面より僅かに内側に設けられている。

<4> 缶本体の底部には底蓋が設けられ、かつ該底蓋の巻締部の外周は、缶本体の外周側面と略面一に設けられている。

<5> 缶本体の上面開口部には、口金の内周面に着脱自在な円形の缶蓋が設けられている。

しかして、甲第一一、第一三号証、丙第一四号証、証人松本二三男の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は、多数の種類の自動車用ワックスを製造し、それらを原告商品に収納して、昭和六三年一一月以降「レインドロップ」等の名称の一〇種類の商品を(うち一種類は平成三年一〇月までの間のみ)、平成三年一一月以降「ニュービビッドハンネリ」等の名称の三種類の商品を、平成四年一一月以降「フッソ3」との名称の商品を、平成五年一一月以降「超防水」との名称の商品を、平成六年一一月以降「激防水」との名称の商品を販売しており、昭和六三年一一月から平成七年一〇月までの間のこれら商品の販売数量の累計は一一五〇万七九二三缶、売上額の累計は八四億四六六七万六一三〇円にのぼり、平成八年二月以降の全国のホームセンターにおける同種の自動車用ワックスの販売個数、販売金額のランキングでは、右原告の自動車用ワックスのうち数種類が三〇位以内に入っていることが認められ、原告商品に収納した原告の自動車用ワックスは、全国的に相当大量に販売されてきたということができる。

3  しかしながら、甲第一一、第一四号証、丙第一四号証、検甲第六号証、証人松本二三男、同中野隆志の各証言及び弁論の全趣旨によれば、自動車用ワックスは、原告及び被告らのほかに、ジョンソン、シュアラスター株式会社、タイホー工業株式会社等が製造、販売しており、一般需要者は、カー用品専門店、ガソリンスタンド、タイヤショップ、ホームセンター等の小売店の店頭において並べて販売されているこれら数社の自動車用ワックスの中から選択して購入することになるところ、初めて自動車用ワックスを購入するに際しては、まず自己の自動車の塗装方法(メタリック塗装か、ソリッド塗装か)及び色に合うものであることを前提に、使用方法、価格、メーカー名を考慮し、更に、キャップホルダーを外して缶本体の上にワックス掛けに使用するスポンジが収納されていることを確認したり、時には缶蓋を開けて中身の色や香りを確認したりするものであり、その商品が気に入れば、二度目からは、商品名やメーカー名によって選択するので、キャップホルダーを外したり缶蓋を開けたりはしないこと、原告商品及び被告ら商品には、いずれも、缶本体又はキャップホルダーに、原告商品(甲一一、検甲一の1)については「FUSSO・3」・「Rain Drop」等、「SOFT99」、「硬い強いフッ素でコーティング <1>強い水ハジキ <2>水アカをよせつけず <3>3倍の持続、耐久」、イ号商品(検甲一の2、五の1)については、「BE BLUEBLACK」・「SUPER FUSSO レインプロテクトワックス」等、「RiNREi」・「リンレイ」、「さりげなくツヤ」・「スーパーフッ素が雨・水アカを強力にはじく!」、ロ号商品(検甲一の3)については「耐久防水ワックス ライトメタリック」、「リンレイ」、「3カ月 光る! 雨をはじく!」、ニ号商品(検甲一の5、五の2)については「SUPER Black」・「SUPER Red」、「WILLSON」、「ムラなくスッキリ 雨に強く、深みのある光沢」・「赤さらにあざやか 簡単で汚れも落とす」というように、商品名、メーカー名、効能を示すキャッチフレーズが記載されていることが認められる。

自動車用ワックスは、車体に光沢を持たせると同時に、保護膜を形成して車体の塗装を保護する役割をも有するものであるため、右認定のとおり、一般需要者は、まず自己の自動車の塗装方法(メタリック塗装か、ソリッド塗装か)及び色に合うものであることを前提に、使用方法、価格、メーカー名を考慮し、更に、キャップホルダーを外して缶本体の上にワックス掛けに使用するスポンジが収納されていることを確認したり、時には缶蓋を開けて中身の色や香りを確認したりして選択し、その商品が気に入れば、二度目からは商品名やメーカー名によって選択するものであり、原告や被告ら等のメーヵーも、その選択に際しての情報を提供するために、自動車用ワックスを収納している缶本体やキャップホルダーに商品名、メーカー名、効能を示すキャッチフレーズを記載しているのであって、およそ一般需要者が右のような表示を除く缶本体の形態(形状)自体に着目して商品を購入するとは考えられず、原則として、缶本体の形状が商品の出所表示機能を取得することはないといわなければならない(証人松本二三男の証言中、これに反する部分は採用することができない)。もっとも、缶本体の形状が極めて特徴的であって、一般需要者の注意を強く惹き、印象に残るものであれば、出所表示機能を取得する余地もないではないが、原告商品の形態は、前記2認定のとおりであって、格別特徴的であるとはいえず、特に、缶本体の外周側面の上端部に内側に向かって垂直面から約四五度折れ曲がって形成されているテーパー面の垂直高さは、外周側面の縦方向長さの約二九分の一であり、平面から見た水平長さは、缶本体の外周側面の半径の約三七分の一であるというように、正面図等における外径の寸法が正しいとして特定した場合の本件登録意匠と比べても格段にテーパー面が小さく、明確な直線状をなしているとはいい難く、従来のネックドイン缶におけるテーパー面の大きさの域を出るものではないから(この意味で、原告商品の形態は本件登録意匠を実施したものとはいえない)、出所表示機能を取得する余地はない。

4  以上のとおり、原告商品の形態は、本件損害賠償請求時点においても今日においても、出所表示を機能を有しておらず、原告の商品表示とは認められないから、これが周知性を取得しているということもありえず、したがって、争点2(二)について検討するまでもなく、原告の不正競争防止法二条一項一号、三条一項及び二項、四条、五条一項に基づく請求も理由がないというべきである。

第五  結論

よって、原告の被告らに対する請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する(平成九年一二月一九日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 小出啓子 裁判官田中俊次は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野武)

イ号意匠図面(1)

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イ号意匠図面(2)

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ロ号意匠図面

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ニ号意匠図面(1)

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ニ号意匠図面(2)

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ニ号意匠図面(3)

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日本国特許庁

平成5年(1993)7月14日発行 意匠公報(S)

F4-52

872754 意願 昭59-35497 審判 昭62-14341

出願 昭59(1984)8月24日

登録 平5(1993)4月6日

創作者 田中信 大阪府大阪市東区南新町1丁目12番地 日東化学株式会社内

意匠権者 日東化学株式会社 大阪府大阪市中央区南新町1丁目4番6号

代理人 弁理士 藤本昇

審判の合議体 審判長 田辺隆 審判官 矢田千代子 審判官 伊勢孝俊

意匠に係る物品 包装用缶

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本件登録意匠説明図

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乙第二号証

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意匠公報

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